国鉄は訴える(その2)
いまから43年前、1975年6月16日から3日間、国鉄による意見広告「国鉄は訴える」が掲載されました。
このうち、2日めである、6月17日掲載分です。
なお、意見広告は縦書きですがブログでは横書きとし、段落を変えるときに行う1文字下げはブログでは改行にとどめました。
2日めのサブタイトルは「あなたの負託に応えるために」でした。
【あなたの負託に応えるために】
あなたが何気なくふだん手にされる時刻表。あの一冊の中に国鉄の全ての仕事が、一本の線、一本の列車も漏らすことなく収められている。正確にいえば、そのほかにまだ、貨物列車もあります。だからそれを含めた一冊分が、国鉄の全ての仕事の、しかも一日分です。
これだけのボリュームの列車が、一分の狂いもなく毎日毎日正確に運行されなければ、私は私の使命を全うしたとはいえないのです。
そのためには、四十三万人の職員は地味な苦労を積み重ねているのです。
そんなことは、国鉄の使命を考えれば当然だ、とあなたはおっしゃるかもしれない。
しかし、その当然のことが実は大変なことなのです。
私は何も苦労の押し売りをするつもりでそういうのではなく、あなたから「当然」と思われるほどあなたの生活に密着してしまった国鉄の役割を語りたいのです。明治五年創業以来、百三年の国鉄の歴史に私は誇りをもっています。
それは日本の経済・文化の成長に大きな貢献をしてきたという誇りであり、またそのことをあなたも認めてくれるだろうという自負心です。
私はいま、客車と貨車を合わせて十六万両以上の車両をもっています。それを編成して、一日平均二万八千本の列車を動かしています。その走る距離は約二百万キロ、実に地球五十周分の距離を毎日走らせているのです。
そして、私が運ぶ旅客の数は一日千九百万人、一年で見ると六十九億人の旅客輸送を私が受け持っているということになります。
また、貨物は毎日五十万トン、一年では一億八千万トンを分担しているということです。
如何ですか。
あまり数字が大きすぎて実感が湧かないとおっしゃるのであれば、こういうお話をすればわかって頂けるでしょうか。私は北は稚内から、南は鹿児島まで、旅客輸送では毎日千二百万人の通勤通学の足となり、新幹線では一日四十七万人の旅客を運び北海道の美幸線では一日百六十七人の旅客を運んでいるのです。
また貨物輸送では、日本人の食生活になくてはならないお米のうち、生産県から消費地に運ばれる米の九〇%、青森から出るリンゴの五〇%を運んでいます。さらに、東京付近で消費されるミカンの九〇%。北海道産のジャガイモの六〇%をお届けしています。
それぞれの使命と役割を担う、一本一本の列車。それらがあなたに示したダイヤ通りに走るために、駅、機関区、保線区、電力区などあらゆる職場で、「安全・正確」というただ一つの目的のために、昼夜を分たず雨も雪もいとわない働きが続けられているのです。
あなたの目にふれない所で、あるいはあなたが見たこともない所で集積される四十三万人の力の結晶。それがダイヤ通りに走る一本一本の列車なのです。
一本のダイヤが生まれ、それがあなたの駅で、時刻表の時刻通り発車するまでに辿る車両計画、設備計画、乗務員手配、他列車との接続等々、厖大な仕事を一つ一つこなしていく長い準備も含めて、あの時刻表は、あなたの負託に応えようとする私の責任意志の表示でもあるのです。
いま、日本で、三百六十五日、一日二十四時間休みなし、というのは警察と消防のほかには国鉄ぐらいのものではないでしょうか。あなたが眠っている深夜にも、国鉄では七万人が働いているのです。
このように重要な役割を果たすためにあの厖大で緻密な一冊の時刻表が出来上がり、その運営のためには実に二兆七千億円を越える経費がかかるのです。五十年度の経費は
人件費 一四、六四三億円
物件費 五、三四四億円
公団借料 二五一億円
市町村納付金 一五一億円
利子など 四、一五一億円
減価償却など二、八二二億円
営業外経費 三六億円
合計 二七、三九八億円
その結果、五十年の国鉄収支は七千七百八十四億円の赤字になる見込みです。
収入 一九、六一四億円
(うち運輸収入
一六、六五六億円)
支出 二七、三九八億円
赤字 七、七八四億円
このままいけば、五十一年には、運輸収入が赤字額とほぼ同額となってしまう見込みです。「まだまだ合理化の余地はあるだろう」とあなたはおっしゃるかもしれない。
何をするにも経賞は安い方がいいに決まっていますから、「余地」について研究し、努力しなければならないことを私も認めます。この十年間は、ずっとこういう赤字続きの財政状態だったのですが、もちろん私はこんなに財政事情が悪化していくのを、放っておいたわけではありません。私なりの努力を続けてきました。一人でも多くの人を、一円でも安い費用で運べるように考えること、それも私の使命なのですから。
例えば、昭和三十年には七〇%もの列車を引っぱっていた蒸気機関車(SL)を今年中に廃止するのもその一つです。惜しんでくれる人もいますが、これは結局、動力コストの節減になります。また、旅行者の便宜を図る指定券自動発売装置(マルス)の開発、出札の機械化、列車のスピードアップと乗心地の改善などによって旅客を増やす努力。線路保守を機械化し、電化、自動信号化を進めるなど、近代化とともに人件費の節減にもつながる努力も数多く行なってきています。
だから、これらのあらゆる努力の集約的な結果として国鉄の仕事の水準がいかに上がってきているかは、次のように職員一人当りの仕事量の向上で見ることが出来ます。(人トンキロとは旅客一人、貨物一トンを1キロ運ぶ単位)仕事量
昭和二十四年度
一、〇〇八億人トンキロ
四十年度
二、三四五億人トンキロ
四十五年度
二、五七〇億人トンキロ
四十八年度
二、七〇一億人トンキロ
職員数
昭和二十四年度 四九・一万人
四十年度 四六・二万人
四十五年度 四六・〇万人
四十八年度 四三・三万人一人当り仕事量
昭和二十四年度
二〇・五万人トンキロ
四十年度
五〇・七万人トンキロ
四十五年度
五五・九万人トンキロ
四十八年度
六二・四万人トンキロ二十四年に比べると、職員の数は減っているのに、一人当り仕事量は約三倍にふえていることをおわかり頂けると思います。
そればかりか、この一人当り仕事量は外国の国鉄よりもずっと多いのです。たとえばイギリスの三倍、西ドイツの二倍、フランスの一・五倍もあります。
私が、まだまだ高い目標を目ざさなければならないことは勿論です。しかし、いままでにも決してその努力を怠ったり、忘れたりした日はなかったのに、一向に財政がよくならないのは何故か、とあなたはお思いになりませんか。その上、これはいままでお話ししなかったことですが、設備投資にも莫大なお金がかかります。
これは、ちょっと考えて頂ければすぐわかることですが、国鉄があと一年働くというのではなく、将来とも働くためには、新幹線建設、通勤輸送改善、各種保安対策の強化などに、四十八年の例でも、八千億円に近い工事費がかかったのです。
さらに、あなたの要望に応え、サービスを改善していくためには、もっと大きな投資が必要です。こうして私の借金は、毎年の赤字を埋めるためと、将来の必要のため、遂に六兆七千億円にも達するのです。
これは国家予算の四分の一にも当る金額です。
こうした国鉄の現状と財政をわかって頂いた上で、私はあなたに本当に問いたいのです。
「あなたは国鉄を必要としますか」と。(続く)
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